カテゴリ: 300回〜

前回、邱永漢さんの20年前の著作
『籠いっぱいの価値ある情報』のなかで
日本でPER(レシオ)が取り上げられた頃の
光景を伝えてくれる文章を
引用させていただきました。

この本で邱さんはファナックと清水建設を例にとって
「一株当りの利益」、「株価」、「レシオ」の
関係を説明し、投資の実際の場では、
実は「レシオ」も役に立たず
役に立つのは「一株あたりの利益」であると
次のように書いておられます。

「株価収益率を根拠にして株価が安いか、
高いかを判断するのは、
今日ではもはや常識に属する。

それはまた日本のように、
いくら利益をあげても会社が配当をケチる
日本の株式市場の株価を
判断する恰好の物差しになっている。

『四季報』でも『会社情報』でも最近は
PER(レシオ)を載せるようになった。
(中略)
例えばファナックは59年に
一株あたりの利益232円ほどの利益をあげている。
株価が高く買い上げられるのは当然として、
17,000円の高値をつけている。
レシオは56倍になる。

また清水建設は59年、
一株あたり19円70銭の利益をあげている。
株価は230円だから、
レシオはわずかに11.6倍に過ぎない。
(中略)

(ふつう)年に8円くらい稼いで株価が160円とすれば
レシオは20倍になる。

すると、(レシオが)一番低いのは清水建設で、
一番高いのはファナックだから、ファナックは
異常な高値まで買い上げられており、
高すぎるのではないかと考える人もいる。

反対に清水はうんと安いし、しかも年に9円の
安定配当をしているから、利回りを計算しても
4%近くにまわる。

ならば、清水を買えばいいのではないかと考える。
少なくとも利回り本位の人やレシオの信奉者は
そう考えがちである。

ところが、利回りはもう全く問題にならないとしても、
レシオも実はあまり参考にならない。

参考になったのは、
一株あたり現にどのくらいの利益をあげているのか、
またこの利益は来年度はどうなるのか
3年後はどうなるのかといった未来の見通しであって、
もし先行きに対して強気の見通しが立つなら、
レシオを無視して株価はさらに上まで買い上げられる。

今や株価の高低を判断する基準はレシオでもなければ、
まして利回りでもないことがわかる。

それでもなお株価の上昇が期待されているのは
一株あたりの利益がもっと上昇するのかどうか、
その企業としてもっと多くのお金を集められる位置に
あるかどうかという一点に集中している。

日本の人気銘柄にはそうした期待が寄せられているか、
このことは配当率がふえるかどうかということとは
全然関係がない。

これからももっと利益をあげて
日本中、世界のお金を集めることができれば、
その企業の含み資産は
いよいよふくれあがる。その斜影が株価であるから、
斜影が大きくなれば株価も自然にあがる
仕掛けになっているのである。」
(『籠いっぱいの価値ある情報』昭和60年)

昨今、邱さんが今後の中国株の動きを
予測するに当たって力説されていることの
理解を深めるのに参考になると考え、
少し長いですが、引用させていただきました。

前回、昭和60年に出版された
邱永漢さんの『籠いっぱいの価値ある情報』で
日本の株が利回りをはずれてドンドン買い上げられ、
それを支えたのが,一株当たりの利益が
上がっていきそうだという期待であったと
説明を受けました。

今回はそれに続く箇所を
引用させていただきます。
「私がはじめて株に手を染めた35年ごろ、
株を買う人はいずれも利回りを根拠にして
株の売買をしていた。
銀行金利が6%として、株の配当率は
定期の金利よりも不安定なものだから、
6%より高いのが常識であった。

不安定な利回りを狙うのだから、
せめて一流企業の株を狙えとばかりに、
一流銘柄にだけ人気が集中していた。

それに対して、私は
企業の成長性を加味すべきだし、
どうせ買うなら毎年、増資を繰り返すような
成長企業の会社の株を買い、
株数を増やしていく方が
理にかなっていると主張した。

投資家たちが私の主張に耳を貸してくれたので、
日本の株式市場は一時期、
成長株の株価が額面の10倍にも20倍にもあがり、
反対に一流企業の株価は限りなく額面に近づくという
傾向を見せた。

この時期に、成長株の買い根拠になったのは、
増資をしても配当率が落ちないということであり、
配当率が落ちないためには、
一株あたりの収益率の高いことが重要であった。

俗にレシオと呼ばれている株価収益率は
配当率を離れて株価が高くなっていく傾向を説明するために
アメリカの証券アナリストたちが考え出した理屈である。

一株当たりの収益率が高くなれば
同じ配当率の他の銘柄に比べても当然
高く買われて不思議ではない。

たとえば、一株が50円稼ぐ株が
千円の株価をつければ
レシオは20倍になる。
2千円をつければ、40倍になる。
レシオが低ければ、
株価は高い位置にいても
値段は安いと言えるし、
株価の位置は低くても、
レシオが高ければ、
株価は安いことにはならない。」
(『籠いっぱいの価値ある情報』昭和60年)

ここで取り上げられてる「レシオ」については

「第341回 欧米人の投資の物差しは利益収益率」
ででもとりあげました。

ちなみに、邱さんがこれまでお書きになった
株についての評論を掲載する本は
70冊くらいありますが、
私が記憶するところによれば、
「レシオ」についての記述が最初に登場する本は
最近とりあげている『籠いっぱいの価値ある情報』です。

昭和60年に出版された
邱永漢さんの著作に
『籠いっぱいの価値ある情報』
という本があります。

今から20数年前に書かれた本ですが、
この本の中で邱さんは
日本の株が利回りをはずして
高く買い上げられる傾向について
次のようにお書きになっています。

「日本の上場企業の平均利回りは
たったの1%である。100万円投じて、
1年間にもらえる配当金は
たったの1万円である。
(中略)
アメリカの株は、
日本にくらべると、ずっと利回りが高い。
年に7%から8%の利回りがある。
私の友人の中にも、
アメリカ、日本、台湾を行き来していて、
三国にわたって株を買っている人がいる、
その人は私と株の話をするたびに、
アメリカの株に比べて日本の株が高すぎると
文句を言う。

アメリカの超一流株は、
日本の会社に比べてみても
基礎がしっかりしtているが、
利回り的にもちゃんと採算に乗っている。
どう考えても、日本の株は
ワリに合わないという。

ところがワリに合わない日本の株が
さらに高値に買い上げられる。
アメリカ人までが一緒になって
日本の株を買う。

ただでさえ利回りをはずしている株が
さらに利回りをはずしていく。

その買いの根拠はどこにあるか
というと値上がり率であり、
キャピタル・ゲインである。

どうして値上がりするかというと、
一株当りの稼ぎが
さらに上昇していく気配を
見せているからである。」
(『籠いっぱいの価値ある情報』昭和60年)

昭和60年頃、日本の株が
ドンドン値を上げていきましたが、
それを支えたのは、一株当たり利益が
更に上がっていきそうだという
気配であったと説明されています。

前回、昭和30年代の日本では
株には上がり下がりのリスクがあり、
その配当は定期預金を上回るのが当然と考えられ
利回り中心で株が売買されていたことを紹介しました。

しかし、先日、邱さんは
「『利廻わり革命』が中国株にも起りそう(第2319回)」
で、かつて日本の株式市場で起こった
「利廻わり革命」と似たようなことが
今後、中国で起こるのではないか
とお書きになりました。

ここでいう“利回り革命”とは
どういうことなのでしょうか。
昭和58年に出版された
『邱永漢の株入門』の中で
「株の配当はあてにできるのか」という
質問への回答そして、邱さんが
次のように説明されています。

「戦前は配当金が6パーセントから
8パーセントありました。
当時の定期預金の利子を6パーセントとしますと、
株の配当は増えたり減ったりして不安定だから、
それより多い7パーセントか8パーセントくれるのが
あたりまえだと、考えられていたのです。

ところが戦後になって、
いわゆる利回り革命なるものが起こった。
株は利回りでいくらもらうかより、
この会社に将来性があるか
どうかによって売買するものだというふうに
考えが変わったのです。
そのために、50円の株でも、
1500円、2000円で
売買されるようになった。

50円の株で2割配当したって、
たったの10円しか配当ですよ。
株価が1500円いたら、
一年間に1500円に対して10円しか
配当がないわけですから、
1パーセントにもならないんです。

これはだれが考えたってバカらしいでしょう。
ですから、配当金を当てにしている人は、
ほとんどいません。
みんな上がり下がりだけを考えています」
(『邱永漢の株入門』58年。『株の原則』)

以上の説明によれば、
「利回り革命」とは
会社の将来性が高く評価され
この会社の株価は将来、ドンドン高くなるのでは
ないかという期待から株価が高くなり、
その結果、その株の配当利回りが
一般の預金金利を下回るようになる
現象のことを指すようですね。

最近、邱永漢さんは
中国株投資の今後の姿を展望されていますが
その際、日本の株式投資が歩んできた道を
大いに参考にされています。

邱さんにとって、
日本の株がたどってきた道は懐かしいものでしょうが、
私のように邱さんより20歳ばかり下の読者は、
日本の証券投資のヒストリーについては
知らないことが多いです。

まして、私より若い人となると
もっと知らないと思います。
そこで邱さんご自身がこれまで書いてこられた
文章を教材にして、日本の証券投資の歴史を
学ぶことにしましょう。

まずは日本の成長経済が
始まる昭和30年代の様相です。

「私がはじめて株を手がけた昭和30年代は
鉄の時代のスタートした時期であったから、
当然資産株を代表するものは、製鉄メーカー、
もしくは、鉄を最も多量に使用する
総合電機メーカーであった。

人々の投機の尺度はそうした日本を代表する
超一流株を利回りでいくらになるか計算して
安い高いを判断し、安ければ買い、
高ければ買い控えるということであった。

たとえば
当時の一年定期預金の金利は6%であった。
株式の配当金は定期預金の利息に
比べると不安定なもので、
定期預金の金利より少し高目
というのが正常と考えられていた。

だから利回りが6%を割れば
株価が高目であると受け止められたし、
反対に7,8パーセントであれば
買い余地があると考えられた。

また増資が近づき増資後も
同じ配当率が期待できる場合は
利回りが増大するので、
更に上値が買われた。」
(『株が本命』昭和63年)

これで、昭和30年代は日本の株が
6%から8%で回されていたのだ
ということがわかります。

そして、いま中国株は配当が高いと
受け止められていますが、
この点についていえば、今の中国株は
利回りが投資尺度であった頃の日本株と
似た段階にあるといえるのかもしれません。

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