カテゴリ: 1150回〜

私が邱永漢さんの作品を読み始めた頃
邱さんは55歳でした。
この頃、すでに邱さんはジャーナリズムの世界で
確固たる地位を確立しておられました。

当時、邱さんの文章は
さまざまな雑誌や週刊誌に掲載され
それらの雑誌や週刊誌が発行されるつど、
本屋に走って読み、連載が完結して
一冊の本が出される度にその本を買いました。

他の人の本ではお目にかかることない
有益なアドバイスが惜しげもなく
提供されていることがひとつの魅力です。

と同時に“常識に従うな”とか
“経験が邪魔をする”とか
“安定より不安定な状態のほうが良い”
とか、これはいったいどういう意味なんだろうと
頭をひねらなければならい言葉が書かれている
ことも読み続けてきた要因のひとつです。

そして邱さんが76歳になられてから、
インターネットでの連載が始まり
『もしもしQさんQさんよ』を先頭に、
インターネットで発信された文章を
掲載する本が出版されるようになりました。
自分の目のまえで語られるような
語調の文章が、インターネット本の魅力で、
一連の本もすべて買い、友人たちにも
全冊購入を勧めてきました。

この間、自分が読者でなかった時代、
つまり邱さんの55歳以前の作品も読みたくなり、
あちこち探し回った結果、私は
この世に発表された邱さんの本は
すべて手に入れて読ませていただきました。

そんな私が邱さんの作品について
持っている一つの感慨は
邱作品はどの作品もそれぞれ独自の顔を
持っているということです。

もちろん、一人の作家の作品ですから
同じ趣旨の主張が述べられている所は
ありますが、一冊、一冊それぞれ
その本ならではの特徴を持っているのです。

たぶん、邱さんが、自分の文章に
目を通してくれる読者が楽しみながら
読んでくれることを願い、つどつど、
工夫を凝らして書き続けられ
現在も継続されているからだろう
と解釈しています。

私がはじめて読んだ邱永漢さんの
単行本は『悪い世の中に生きる知恵』
という本です。

29年前、昭和54年の暮れのある日のこと、
理髪店に行き『週刊ポスト』を手にとり、
パラパラとページを繰ると、邱さんの
『悪い世の中に生きる知恵』と題した
連載が目に入りました。
『シメタた!』と思いました。
私はその頃、邱さんの本を探し求めていたのです。

実はその年、私はある本で
『インフレへの鋭敏な対応を』
という邱さんの短い文章を読み、
衝撃を受けていました。
その時点の時代傾向と
その傾向に合致した理財方策が
具体的に書かれていたのです。

個人の財産形成について
これほど説得力があり迫力に満ちた
文章を読んだことがありませんでした。
このことから私は邱さんの考えを
より深く勉強したくなり、古本屋を回って、
手に入る邱著作をすべて手に入れました。

そんな年、
『悪い世の中に生きる知恵』という
新しい連載に接したわけです。
連載が終わり本になると、すぐ購入しました。

本に書かれている文章がすぐに
飲み込めたと言うわけではありません。
「これはどういうことだろうか」
と疑問に思ったり、抵抗を感じる文章も
たくさんありました。

しかし、不思議なことですが、
自分の人生を有利なものとする上で
邱さんという人の本は最高のガイドになってくれる
のではないかという予感が走りました。

その頃、邱さんはあちこちから、
斬新な名前の本をたくさん出されました。
当時の自分の給料からすると1000円近い

本は安くない買い物に見えたのですが、
邱さんの本だけは必ず買いました。

おかげで、私の書斎は邱永漢著作で
あふれるようになりましたが、
私はいま、かつて予感したように
邱永漢著作は自分の人生を最も有利なもの

とする上で最高のガイドであると考えています。

そしてこのような私の意見に
賛成してくださる方が
少なくないだろう
と感じています。

渡部昇一さんは『知的生活の方法』
のなかで、古典といわれるものの根本は
「繰り返し読むに耐えるもの」だと書いています。

渡部さんは岡本綺堂の『半七捕り物帳』を
読み続け、自分の古典は『半七捕り物帳』だと
述べておられまます。

そしてシェイクスピアの作品が
イギリスのなかで古典として形成されるのは
ご自身のなかで、『半七捕り物帳』が古典として
確立してきたのと同じ経過をたどっているのは
ないかと述べ、次のように書いています。

「その秘密は『繰りかえす』、
しかも『時間の間隔をおいて読み返す』
ということにあると思う。
『繰りかえす』ということは、
子供の読書においても需要なポイントである。
そしてこの繰りかえしが20年も
続けられて、しかもそれに耐える本や
作者にめぐり合ったら、相当に
大きな人生の幸福と言ってもよいのではないだろうか。
つまりそういう人はその人自身の
私の古典を発見したことになるだから。
そして『半七捕物帳』はだれがなんと言おうと
私の古典なのである。」

そして、渡部さんは昨日紹介しましたが、
「あなたは繰り返して読む本を
何冊ぐらい持っているだろうか。」
という問いかけを発します。

私は、このコラムをお読みいただいている
人の中には渡部さんからの問いかけ
に対して
「私の古典は邱永漢作品です」
と答えられる方が少なくないでしょうと
書きましたが、邱さんの本は
読み返すたびに新しい発見があるからです。

そして渡部さんの意見に従えば
「邱永漢作品は私の古典」と
答えられる人は幸せだという
ことになります。

一方、自分は邱さんのコラムは
毎日読んでいるけど、そこまでの
感じは持っていないという人には
邱作品を手元において、おりおり
読み返し、繰り返し読むこのとの
楽しみを味わっていただきたい
と思います。

今から30年ほど前に読んみ、
今でも忘れることができない本があります。
上智大学の英文学の先生をされていた
渡部昇一さんの『知的生活の方法』という本です。

自分も多少は、知的な生活を楽しむようになりたいと
思っていましたので、本のタイトルに魅かれて
読みはじめましたが、渡部さんは
「自分をごまかさない精神」
が大切だと書いていました。

続いて「古典をつくる」という章があり、
渡部さんは、ご自身の読書体験を振り返りながら
「自分の古典」は人が何と言おうと
『半七捕り物帳』だと書いていました。

渡部さんによれば古典とは繰り返して
読んだり見たりするものに耐えるものであり、
ご自身にとっては『半七捕り物帳』が
そういう条件をピッタリ満たす読み物だったのです。、

そして、読者に向かって渡部さんは
次のように問いかけます。

「あなたは繰り返して読む本を
何冊ぐらい持っているだろうか。
それはどんな本だろうか。
それがわかれば、
あなたがどんな人かよくわかる。

しかし“あなたの古典”がないならば、
あなたはいくら本を広く、多く読んでも
私は読書家とは考えたくない。

まず、ニ、三年前に読んで
おもしろかったと思うものを
片っぱしから読みなおしてみられるとよい。
そして何冊か読みなおして、
おもしろかったらそれだけをとっておき、
また来年かさ来年に
読み返してみるのである。」

この渡部さんの問いかけを反芻し
ご自身の古典を挙げてみてください。
たぶん、このコラムをお読みくださる方の
多くは「自分の古典」の一つに
「邱永漢さんの作品」を挙げられると思います。

9月上旬のある日、邱永漢さんの秘書の方から
『邱永漢が直接、戸田さんにあって、
じかにお話したいと申していますので、
こちらに来ていただけますか』
との電話をいただきました。

私がお願いして邱さんにお会いさせて
いただくことはあっても、邱さんから
じきじきに『会って話をしたい』
という連絡をいただくことはまずありません。

そんなご連絡をいただきましたので
「邱永漢思想の研究」をライフワークに
させていただいている人間としては、
すべてをさしおいて、馳せ参しなければなりません。

私はお電話をいただいた日の午後、
渋谷の事務所に邱さんを訪ねました。
ひとしきり、自分の近況をお話させていただきましたが、
邱さんからいただいたお話は
『ハイハイQさんQさんデスの
21冊目の以降の本の出版に際し、
解説を書いてほしい』とのことでした。

「大変なことになったなあ」
というのが私の頭を駆け巡った思いです。
これ以上、平易な表現はないと思われる、
わかりやすい言葉で書かれている
邱さんの文章の解説文を書くことが
簡単なことではないことを、これまでの経験から、
身にしみて感じているからです。

ですが、そんな私的な感情にとらわれ、
あれこれ逡巡している場面ではないとも思いました。
ハイQに連載されている文章が本と言う形で
まとめ上げられることは、邱さんの直近の文章を
本と言う形で、必要のつど読むことが可能になる
ということであり、それを永続的に続けるという
高次の目的のため、微力を尽くすべきと感じました。

そこで、邱さんからお話をいただいた後
寸秒の間をおかず私は『やらせていただきます』
と返事しました。

そのあと、私は出版社にでかけ
編集の方と出版に向けての段取りを打ち合わ、
以後、何度もメールの交換しその結果、、
ハイQ連載本21冊目の本である
『中国にこれだけのビジネスチャンス』
が誕生し、11月末日から、東京を先頭に
全国各地の本屋さんで発売されることになりました。

このコラムをお読みになっておられる方は
「ハイQ」をお読みになっていると思いますが
「ハイQ」を読み「お世話になっている」と
感じられる方は、どうぞ『中国にこれだけのビジネスチャンス』
(1300円+税)をご購入ください。

そのことで、この本の販売に活気が出、
出版のリスクを負われた出版社の人たちも
元気を増し、ハイQ連載本を継続的に
発売しようという動きになるからです。

どうか、皆さん、ネットで一度読んだ文章を、
紙の上でも何度も読める環境づくりに
お力添えくださいますようお願い申し上げます。

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