カテゴリ: 850回〜

邱永漢さんが株を始めたころ、
桑田雄三さんという人が編集した
『店頭株五ヶ年投資の実例』という小冊子を
証券会社の店頭で渡され、その内容に
大きな衝撃を受けたという話は
半自伝『私の金儲け自伝』にも書かれています。

桑田さんの小冊子を読んだことが
自分の半自伝にまでが書かれているということは
桑田さんが書かれた冊子が、邱さんの
株式投資に対する考え方を変えただけでなく、、
その人生をも変えることになったことを
意味しているように思います。

そこで、昨年末、私はこの桑田さんが
どういう人であるのかに関心を持ち、調べました。
その結果、桑田さんが下記のような本を
お書きになり、それらが現存していることを知りました。

(1)『我国取引所の理論と実際』(有斐閣)昭和15年(2円64銭)
(2)『日本証券取引所の理論と実際』 (輝文堂書房) 昭和19年
(3)『東京証券業協会10年史』(東京証券業協会) 昭和26年
(4)『株式投資の実際』(布井書房) 昭和27年12月(280円)
(5)『証券投資の新知識』 (経済春秋社) 昭和33年5月(320円)
(6)『成長増資株の選び方』 (東洋経済新報社)昭和34年8月(280円)
(7)『証券と貯蓄』(経済春秋社) 昭和36年11月(320円)
(8)『証券市場論』(ケイザイ春秋社)昭和49年4月

私はこれらの著作のうち、友人の協力を得て
上記のうち、(1)(4)(5)(6)(7)(8)
の各著作に目を通しました。
そして桑田雄三さんがたどれらた
人生履歴を追うことができました。

私の友人の中には邱永漢さんの
株式投資についての考え方をすこし突っ込んで
勉強したいという人たちがいます。

そいう言う人に、私は近著作の
『損をして覚える株式投資』はもちろんですが、
株式評論の処女作である『私の株式投資必勝法』とか
『株の原則』といった本をよむことを薦めています。

ところで、これらの本の中には邱さんが、
株を買い始めた頃にある小冊子を渡され
目の覚めるような思いがしたという話が
紹介されています。

邱さんはある日、ある日、
行きつけの証券会社の店先で
桑田勇三という人が編集した
『店頭株五ヶ年投資の実例』という小冊子を
手渡されます。

その小冊子の中には、資金60万円を投じて
店頭株の中から12銘柄を選び出し
それぞれ各500株ずつ買い、4年9ヶ月のあいだ、
配当金75万円のほか約75万円を
増資払い込みに当てていただけで、
つまり元金60万円プラス75万円で、
4年9ヶ月後の持株総評価額が1400万円になっている
ことを示す統計が書かれていたのです。

邱さんはこの表を見て、びっくり仰天し、
株を買うのなら、誰もが知っている株を、
いくら値上がりするだろうなどと考えて
買いのでなく、どういう会社が、将来、
日本の産業界のリーダーの役割を
担うようになるか、それを見通すことのほうが
はるかに大事だという考えに至ります。

そこから、邱さんは、どんな未来の横綱も
必ず幕下から出てくるのだから、
店頭株の中から、将来の成長株を
探し出すことだけに考えを集中し、
その結果、大鉱脈を見つ出すという実話です。

前回、邱永漢ベストシリーズ版
『私の株式投資必勝法』の「まえがき」
の前半を紹介しました。
今回は後半を紹介します。

「いつの時代にも必ず
初めて株を買う人が現れるものであり、
似たような初歩的な過ちをおかす。

安く買って高く売れば
株で儲かることは自明の理であるけれども、
どんな株のベテランでも、
成長株を買って増資の度に払い込みをし、
幾何級数的に持株をふやしてきた人に敵わない。

だから、何十年かたって
人気株の銘柄がすっかり入れ替わり、
株価の位置が何百円台から何千円台に移っても、
銘柄と値段を入れ替えただけで、
理論はそのまま通用する。

相場の動きに対する人々の反応の仕方も、
また欲の皮の突っ張らせすぎで
失敗したりする愚かさもほとんど変わらない。
おかげで、徳間書店から出した
『邱永漢自選集』の中にも
収録することになった。

20年たってこのトシリーズにも
また収録することになった。
私がこの処女作にこだわるのは、
激しく変化する現象をとりあげても、
原則をとらえれば、生命が長いことを
30年も長持ちしてきた著作を通じて
皆さんに理解してもらいたいためである。
(1992年3月記)」
(邱永漢ベストシリーズ版『私の株式投資必勝法』まえがき)

この「まえがき」にもあるように、
邱さんが最初に書いた株のエッセイには、
今中国株への投資の中で話題になっている
「成長株投資」が株で成功するための要諦として、
指摘されています。
この辺が驚嘆し、深く敬服するところです。

ひょんなことから最近のこと、
私は邱永漢さんが37歳の時に発刊された
『投資家読本』を手に入れました。

この本は世に出てから40年ほど経っていますが、
この本には株で成功しようとするなら
知っておくことが必要なことが書かれています。

このため、この本が出版された31年たった1992年、
邱さんはこの本に記載した「私の株式投資必勝法」
ほかのエッセンスを収録した本を
『私の株式投資必勝法』と題して再版されました。

この本の再版にあたって邱さんは
「まえがき」で次のように書いておられます。

「『私の株式投資必勝法』は
株について私が最初に書いたエッセイである。
『婦人公論』の昭和35年7月号から9月号まで
3回にわけて連載し、他のエッセイと合わせて
朝日新聞社から『投資家読本』として出版したら、
たちまちベスト・セラーになった。

ふつうの株の記事は時間がたつと
腐って使いものにならなくなる。
あまりアップ・ツー・デイトな書き方をすると
大暴落にあった時など雑誌に載る前に
すでに間違っていたりする。

そういう生き馬の目を抜く世界の話を書いて
30年たってもまだ何とか読むに耐え、
しかも全集の中に収められていると言ったことは
稀有の例といってよいだろう。

どうしてそういうことが可能かと言うと、
私が移り動く現象にこだわらず、
その中を貫く原理原則をとらえることに
力を入れてきたからである。」
(邱永漢ベストシリーズ版『私の株式投資必勝法』まえがき)

以上が「まえがき」の前半です。
後半は次回に紹介します。

前回、邱永漢さんが昭和36年に発刊した
『株式投資読本』の「あとがき」に書かれた文章の一部を
紹介しました。今回はその続きの部分の紹介です。

「ただ投資家の中には私のような新入りが多いということ、
そして、新入りによって支えられた株式市場が
過去のそれと、よほど性格を変えてきたこと、
したがって、カンや経験や、
いわんや証券会社の思惑が必ずしも
勝ちを占める時代でなくななったことが
私のような素人の存在余地を与えたことは事実であろう。

ここにおさめられら文章はこの2年間に週刊誌や
月刊誌に執筆してきたものであるが、いま、
これらの文章を読みかえしてみて、
婦人雑誌に書いたものが多いことに
いまさらのように驚いている。

かつて私は『男は労働者、女は資本家というのが
これからの方向だ』といった意味の文章を
書いたことがあるが、株式ブームのなかにあって
婦人投資家のはたしている役割を考える時、
時代の動きの激しさをあらためて身にしみて感ずる。

株式市場の変遷はきわまりないし、
わずか一年のあいだに、株価の居所も変わったし、
金利も引き下げになった。したがって、
内容的には書き改めたほうがいい部分もあるが、
それをあえてそのままのせたのは、
次々と変わる世の中にあって、
原則的なことはそれほど変わるものではない
と思っているからである。

私のいっていることが正しいかどかというよりも、
私が考えたことが少しでもみなさんのお役に立てば、
というのが私の願いである。
昭和36年4月             邱永漢」

この邱さんの読者への願いは実現されています。
当時37歳であった邱永漢さんの文章を、
40数年を過ぎた今日、64歳である私が
こうして書き写して紹介しているのですから。

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