2012年06月

人に頼まれて邱永漢先生がしばしば

色紙に書かれた言葉は

「貯蓄十両 儲け百両 見切り千両 無欲萬両」です。

 

私が邱先生の本を読むようになった翌年

『大口小口の投資読本』(昭和55年)に

収録された先生の文章を読み直すと

「私は人から頼まれると

『貯蓄十両 儲け百両 見切り千両 無欲萬両』

と書くことがある」と書いています。

 

私の大阪でのセミナーに参加いただいた方から

聞いたことですが、彼が大阪の図書館で借りた

『新説 二宮尊徳』を借りて読んだところ、

この言葉に出会い、「ハイQ」に言葉の意味することを

聞きました。

 

この質問に対して、邱さんは概略、

次のようにお答えになりました。

「質問をいただいて、『新説 二宮尊徳』で

私が『貯金十両 儲け百両 見切り千両 無欲万両』

というフレーズを入れたことを思い出しました。

ある時、私が田中角栄さんに

その文句を書き込んだら、

『そうだ、そうだ、この通りだ』といって、

角栄さんは何回も頷いていました。

 

この中で何が一番難しいかというと、

最後の方に行くほど難しくなります。

貯蓄をするのはお金を使わなければできることです。

 

しかし、儲けようということになると倹約しただけではだめで、

もっとずっと知恵を働かさなければなりません。

見切るということになると

うんと痛い思いをすることですから、

それに耐えられるだけの

決断と勇気が必要になります。

 

それ以上に難しいのが欲を捨てることです。

儲けようと損しようと、人のためになること、

世の中のためになること、

もしくは自分のためになることであっても

欲をかかないでちゃんとやれるようになれば、

人間として完成に近づきます。

 

たとえば株をやるときに自分がそれをいくらで買ったか

ということをどうしても気にします。

自分が買った時より安いと、

どうしても売る気になりません。

しかし株をいくらで買ったかに関わりなく

いま売るか、買うかということになったら、

別の考え方をするでしょう。

 

だから、もとはいくらであったかに

とらわれるのは間違いだということになります。

過去にとらわれず、思い切って

見切ることはとても難しいことですが

商売をやる人にとっては損を少なくするヒケツなのです。

先ずお金を貯める初歩からはじまって、

少しずつ高等技術を身につけるのがいいと思います。」(「第106回」)

 

私はこの回答を数年ぶりに読みましたが、含蓄が深いです。

 

邱永漢先生が自分の本の余白に書かれた

短い言葉を3回にわけて紹介しました。

今日からは先生が色紙に書かれた言葉を紹介します。

 

本の余白に書くのも、色紙に書くのも

書く人は同じですから、両者に違いはありませんが、

どちらかと言えば、色紙には教訓的色彩の強い

言葉が選ばれているかもしえません。

 

さて、邱先生が色紙に書いた言葉の一つは

「十万石と言えども特別大粒の米ではない。

一粒一粒が集まって十万石になるのである」

という言葉です。

 

これは勤倹貯蓄のシンボルとされている

二宮尊徳が遺した言葉で、邱先生は

かつて、二宮尊徳について研究し、

『新説・二宮尊徳』

(後に『再建屋の元祖―新説・二宮尊徳』に改題)

という本を出しています。

 

ですので、邱先生は二宮尊徳の思考や行動について

詳しいのですが、

「一粒一粒が集まって十万石になるのである」

というの行動がお金を増やす原点として

共鳴したのでしょう、この言葉を色紙に書きました。

 

これと同じ意味を二宮尊徳の言葉として、

邱先生が盛んに引用されたのが、

「積小成大」(小を積んで大を成す)

です。

 

この言葉は、いま中国の書家によって

色紙に書かれ、額縁に入って

北京・三全公寓のショップ、種字林で

販売されていています。

 

この言葉についての邱先生は次のように

解説されています。

 

「小銭だからと言ってバカにしてはいけません。

二宮尊徳の本にも『小を積んで大を致す』

という言葉が何回も出てきます。

十万石といえども特別大きな粒の米ではない、

一粒一粒が集まって十万石になるのです。」

 

 

5月16日に邱永漢先生が亡くなられたと

報道されたのがその翌々日の18日でした。

 

この日、私は東京に住む次女の家に行っていたのですが、

友人たちからの緊急電話で、先生が亡くなられたようだと

教えられました。

 

「ああ、起こってほしくないことが起こったか」

と天を仰ぎましたが、この日、

台湾から一通のメールが届きました。

 

台湾の「今週刊」というビジネス誌の

孫 蓉萍(ソン ヨウヘイ)さんからで

今週刊は、邱先生が設立した財訊グループの雑誌で、

孫さんは邱先生にインタビューしたことことがあるとのこと。

 

「実は、今週号で、邱さんの物語を

読者に紹介しようと思っております。

戸田さんは邱永漢思想研究家で、

邱さんの考え方について、詳しいでしょう。

幾つかの質問を、メールで、

戸田さんにお伺いする可能性はあるのでしょうか」

 

直ぐに了解のメールを出すと翌19日に、

いくつかの質問があり、その日のうちに回答し

玉村豊男さんの「邱永漢の予見力」の末尾に

掲載した邱先生の年譜も送りました。

 

続いて、邱先生が座右の銘とされた言葉について

質問があり、邱先生がまとめられた金言成句集のなかから、

16の成句を送りました。

 

そして、6月2日には台湾から

「『賺銭之神』邱永漢89年的人生智慧」

と題する記事が届きました。

このことをFACE BOOK内に設けられている

「戸田ゼミ」(非公開)で伝えると、

上海在住の日本人青年、森松信樹さんが

「日本語訳の取組みますよ」と手を挙げてくれました。

 

また大阪在住の山本理さんも実地の勉強として

取組みたいと言ってくれました。

 

こうした経緯を経て、二人の翻訳文が

このほど完成しました。

森松さんは同僚の 陳趙萍さんの協力を得て、

また 山本さんあhは中国語の先生である

王盈恵さんの指導を得て訳してくれたとのこと。

 

すぐ、台湾の孫記者に二人の訳文を送り、

取り扱いについてご意見を求めたところ、

「記事の出所を記してもらえば、希望する人に

読んでいただいていい」との返事をいただきました。

 

孫記者の「邱永漢物語」記事の日本語訳文を

ご希望の方は小生までご連絡ください。

todaatsunari@gmail.com

①森松さんらの訳文(14P),②山本さんらの訳文(6P) 

また参考資料として③孫貴社からの質問に対する私の回答(6P)、

④私が選んだ邱永漢金言成句ベスト16をお送りします。

 

今日は、邱永漢先生が自著の余白に書かれた短い言葉、

「識語」紹介の3回目で、このシリーズとしては最終回です。

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 『立て直しの原則』実業之日本社、平成7年

 

「先の見えるワンマンでないと立て直しはできない」 

 

『1997香港の憂鬱』小学館、平成9年

 

「香港返還が大陸を変える」 

 

『YENよ、いまが出稼ぎの時』 日本実業出版社、平成9年

 

「投資は発展途上国で生産は通貨の弱い国で」 

 

『メシのタネはどこに行った』経済界 平成14年 

 

「メシのタネはお金の儲けにくいところから儲けやすいところへ動く」 

 

『中国株の基礎知識』 東洋経済新報社 平成15年

 

「株の儲けは、知識が10%で後はガマン料」 

 

『外国で働きたくありませんか』廣済堂出版 平成15年

 

グローバル化を明るく楽しく


『東京がだめなら上海があるさ』PHP研究所 平成19年

「生まれ故郷で仕事をするな、家業を継ぐな」

 

「場所を変えて見ろ、ついでに仕事も変えて見たら」


あなたがお持ちの邱永漢著作の最初に余白に、

このような短い言葉が書かれた文章はありませんか。
あれば、小生までお伝えください。

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(ご案内) 

 (1)7月2日の邱永漢先生のお別れの会には私が各地で開いている
セミナーや、年一回の忘年会に参加いただている方々が
各地から出席されるようです。そのため13時から、互いの交流のため、
パレスホテル6階のプリベ で交流いただけるようにしました。
時間が許せば、どうぞ、この場をご利用ください。 

(2)7月8日13時から16時まで、
邱先生が発信された言葉を25のジャンルに分けて学ぶ
「邱永漢語録勉強セミナー」を東京で開きます。
これは、 邱永漢学入門」セミナーとでもいうべきものです。
ご興味をお持ちの方はどうぞ、ご参加ください。 (以上)

 

今日は、邱永漢先生が自著の余白に書かれた短い言葉、
「識語」紹介の2回目です。

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『食前食後 漢方の話』(食べ物エッセイ) 婦人画報社、昭和37年

 

「王者以民為天 民者以食為天」 

 

戸田注:この漢文は
「王者は民を以って天と為し民は食を以て天と為す」と読みます。

文章の意味については邱先生の金言成句集に解説があるので
引用させていただきます。

一国の王をやる人にとって一番大切なものはその国の人民です。
人民にとって一番大切なものは食べることです。
ですから王たるものは人民がちゃんと食べていけるように
常に心を配る必要があります。
中国のフードセンターに行くとよく「食為天」という
名前のレストランを見かけますが出典はこの格言にあります。


『お金も頼りにならない』(経済評論・理財) 昭和51、徳間書店、

「頼りにならなくとも金は要る」 

 

『妻の財産づくり』(理財)日本実業出版社、昭52

 

「妻の最大の財産は夫である」 

 

『奔放なる発想』PHP研究所 昭和59 

 

「人が動く、金が動く、動けば新しい商売が始まる」 


邱永漢手帳、平成2

 

「迷いの多い時は原則を守れ」



『いま世界経済大変動』(経済評論) 平成
3年、

 

「この世では、お金が天国へのパスポート 」

 

『金持ちのアキレス腱』(エッセイ) 日本経済新聞社、平成4

 

「住むほどに悩みのふえる金持ちニッポン」

 

『鮮度のある人生』(人生論)PHP研究所、平成9年

 

「人生はいくつになっても鮮度が必要です」

 

この続きはまた次回。

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(ご案内) 

 (1)7月2日の邱永漢先生のお別れの会には私が各地で開いている
セミナーや、年一回の忘年会に参加いただている方々が
各地から出席されるようです。そのため13時から、互いの交流のため、
パレスホテル6階の”プリベ” で交流いただけるようにしました。
時間が許せば、どうぞ、この場をご利用ください。 

(2)7月8日13時から16時まで、
邱先生が発信された言葉を25のジャンルに分けて学ぶ
「邱永漢語録勉強セミナー」を東京で開きます。
言い換えれば、「 邱永漢学入門」の勉強会です。
ご興味をお持ちの方はどうぞ、ご参加ください。 【以上)

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