人に頼まれて邱永漢先生がしばしば
色紙に書かれた言葉は
「貯蓄十両 儲け百両 見切り千両 無欲萬両」です。
私が邱先生の本を読むようになった翌年
『大口小口の投資読本』(昭和55年)に
収録された先生の文章を読み直すと
「私は人から頼まれると
『貯蓄十両 儲け百両 見切り千両 無欲萬両』
と書くことがある」と書いています。
私の大阪でのセミナーに参加いただいた方から
聞いたことですが、彼が大阪の図書館で借りた
『新説 二宮尊徳』を借りて読んだところ、
この言葉に出会い、「ハイQ」に言葉の意味することを
聞きました。
この質問に対して、邱さんは概略、
次のようにお答えになりました。
「質問をいただいて、『新説 二宮尊徳』で
私が『貯金十両 儲け百両 見切り千両 無欲万両』
というフレーズを入れたことを思い出しました。
ある時、私が田中角栄さんに
その文句を書き込んだら、
『そうだ、そうだ、この通りだ』といって、
角栄さんは何回も頷いていました。
この中で何が一番難しいかというと、
最後の方に行くほど難しくなります。
貯蓄をするのはお金を使わなければできることです。
しかし、儲けようということになると倹約しただけではだめで、
もっとずっと知恵を働かさなければなりません。
見切るということになると
うんと痛い思いをすることですから、
それに耐えられるだけの
決断と勇気が必要になります。
それ以上に難しいのが欲を捨てることです。
儲けようと損しようと、人のためになること、
世の中のためになること、
もしくは自分のためになることであっても
欲をかかないでちゃんとやれるようになれば、
人間として完成に近づきます。
たとえば株をやるときに自分がそれをいくらで買ったか
ということをどうしても気にします。
自分が買った時より安いと、
どうしても売る気になりません。
しかし株をいくらで買ったかに関わりなく
いま売るか、買うかということになったら、
別の考え方をするでしょう。
だから、もとはいくらであったかに
とらわれるのは間違いだということになります。
過去にとらわれず、思い切って
見切ることはとても難しいことですが
商売をやる人にとっては損を少なくするヒケツなのです。
先ずお金を貯める初歩からはじまって、
少しずつ高等技術を身につけるのがいいと思います。」(「第106回」)
私はこの回答を数年ぶりに読みましたが、含蓄が深いです。