2008年01月

桑田勇三さんが昭和34年の時点で
成長増加株を選ぶ基準として挙げたのは
A過去10年間配当を持続し増資したもの
B 株主だけ増資の割り当てをなすもの
C 成長株であること
D 好況に向かう業種であること
の4つです。

個々の基準について
桑田さんがコメントを加えています。
まず「A過去10年間配当を持続し増資したもの」
についは次のように解説されています。

「事業会社の最悪期に欠損がでることは
止むをえないが、しかし日ごろの利益の蓄積さえあれば、
それによって、当期の損失は補填され、
また準備金をくずして配当を安定することができる。
(中略)過去において2期、3期と無配を行った会社は
どうしても優良会社としての安定性がないと見るべきで、
推奨できないものである。

だから安定し配当(たとえ低率でも)と増資が正常に、
しかも株主本位で行われる会社を選択すべことである。
次は2つ目の基準である

続いて「B 株主だけ増資の割り当てをなすもの」
については、桑田さんは次のように解説です。

「会社の資本と資産は、
その会社の株主のものであるから、
株主優先主義であるのは当然で、
資金の必要があるときは、増資によって、
これを株主に仰ぐべきである。
縁故割当や公募によって、資金を吸収することは、
株主を第二義的にみたもので、
株主尊重の建前に反する」

桑田勇三さんが昭和34年の8月に
 東洋経済新報社から発刊した
『成長増資株の選び方』という本は
全体のページ数204のうち、文章で書かれた部分は
わずかに42ページで、あとは統計数字が並びます。

それから50数年たち、いま
昭和30年代の日本と同じような経済発展の
途上にある中国やベトナムの会社にお金を
投じる人にはわずか42ページに書かれた考え方が
役に立つと思います。

『成長増資株の選び方』中の
「Ⅱ成長増資株の選び方」における
記述を抜粋させていただきます。

「株式に投資して株主となるには、
異口同音にいわれることであるが、
会社の選別がもっとも大切なことである。

よいと思われる会社を創立の時から額面で所有し、
現在まで持ち株を持続していれば、株価の上昇と増資による
株主割当いよって、持株数は自然に増加し、いつ売却しても、
多大の利益がある。

この増資ということは、
株式を持つ株主だけが享受できるもので、
郵便貯金や銀行預金の預け主には、
このうまみはみられないことである。

これに反して、会社が創設の見込みどおりに発展せず、
また創設のときでなくても、投資した会社の事業が、
斜陽産業になったとか、業績の低下によって株価が下落し、
無配か続くような会社の株主では、いかに増資によって、
所有株数が増加しても、そのうま味は全然みられないことになる。

そこで成長増加株を選ぶにはどういう基準に
よったらいいか?

A過去10年間配当を持続し増資したもの
B
 株主だけ増資の割り当てをなすもの
C
成長株であること
D
 好況に向かう業種であること」

昭和33年に『証券投資の新知識』 (経済春秋社)
という本を発刊し、「証券取引所開設後、
産をなした人は成長する業種のうちで
優秀な会社の選択と、その増資の新株を売却せずに
持続して所有権を増した人です」と述べた
桑田勇三さんは昭和34年の8月、
『成長増資株の選び方』(東洋経済新報社)
を発刊されます。

この本の「まえがき」で、
桑田さんは次のように述べられました。

「最近、組み合わせ法、マネービル、ゴールド・プラン、
計画投資法などという言葉がさかんに使われているが、
いずれも証券投資にあたって、長期の投資計画をたて、
利殖をはかることであります。

利殖の方法が、その人の性格によって違ってくるのは
いうまでもありませんが、証券取引所開設以来、
産をなしたのは、多くは、成長産業の有用株を持続
した人たちです。
いいかえれば、そうした株式の増資新株を売却せずに
持続して所有権を増加した人々と思われます。

そこで、わたしは、2年前から、増資会社の増資株数の
研究を続けてきましたが、その結果は、
驚くべき増加率をもって株数が増え、
しかも過去10ヵ年の配当金も莫大な額に
達していることを確かめることができました。
こういう意味で、これらの数字を株式投資の
一指針として、投資家のご参考に供した次第です。」

この「まえがき」で私などの興味をひくのは
「増資会社の増資株数の研究を続けた結果、
驚くべき増加率をもって株数が増え、
しかも過去10ヵ年の配当金も莫大な額に
達していることを確かた。」という部分です。

桑田勇三さんは戦後、
証券についての実用書を執筆されるようになりますが、
昭和335月に発刊した『証券投資の新知識』の
「あとがき」で次のように述べておられます。

「証券取引所の市場は、
公共的使命について重大な任務を持つものでありまして、
売買業者である証券会社も、銀行等と同様、
信用の保持、産業資金の調達並びに
証券貯蓄に努力すべきでありますが、
顧客である一般投資者は、
国や事業の経営者とは異なり、
恐らく、証券市場の公共的使命や国の産業資本調達に
応ずることを考えながら証券投資を志す人は少ないしょう。

いわば、証券による貯蓄、これも心理的な自己の
財産保全と高度の利殖のためと思われます。

ところが、証券取引所開設後、
産をなした人は戦前の投機的売買でなく、
実際のところ、成長する業種のうちで
優秀な会社の選択と、その増資の新株を売却せずに
持続して所有権を増した人であります。

それには、不断の証券に関する研究の結果、
産業に投資し、これが事業の発展を楽しむという
心意気で所有株を持続するという努力に
よったものであります」

そして、その翌年昭和34年の8月、
桑田さんは『成長増資株の選び方』 (東洋経済新報社)
を発刊されます。昭和34年というのは邱永漢さんが
株に関心をお持ちになる年です。

戦争が終わり、昭和24年に
現在の東京証券取引所が設立されますが、
桑田さんは東京株式取引所準備室で
取引所の設立準備に従事され、
取引所設立後は、東京証券業協会の
調査課長、調査部長、東京証券株式の取締役
を歴任されます。

その後、東京証券業協会の嘱託となり、
中央大学、東京経済大学で「証券市場論」担当され、
城西大学経済学部の教授につかれます。

この間、桑田さんは昭和26年に
『東京証券業協会10年史』(東京証券業協会) 
を発刊された後、出版社の要請に従い、
一般の投資家や証券業に従事する人たち向けの
実用書的な著作を発刊されます。

・『株式投資の実際』(布井書房)(昭和2712月)
・『証券投資の新知識』 (経済春秋社)(昭和335月)
・『成長増資株の選び方』 (東洋経済新報社)(昭和348月)
・『証券と貯蓄』(経済春秋社)(昭和3611月)

このように、桑田さんの著作が証券の専門書から
実用書に変化しているところが興味深いところです。
世の中は多くの人が求める方向に動いていくのですね。


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