前回、邱永漢さんが昭和36年に発刊した
『株式投資読本』の「あとがき」に書かれた文章の一部を
紹介しました。今回はその続きの部分の紹介です。

「ただ投資家の中には私のような新入りが多いということ、
そして、新入りによって支えられた株式市場が
過去のそれと、よほど性格を変えてきたこと、
したがって、カンや経験や、
いわんや証券会社の思惑が必ずしも
勝ちを占める時代でなくななったことが
私のような素人の存在余地を与えたことは事実であろう。

ここにおさめられら文章はこの2年間に週刊誌や
月刊誌に執筆してきたものであるが、いま、
これらの文章を読みかえしてみて、
婦人雑誌に書いたものが多いことに
いまさらのように驚いている。

かつて私は『男は労働者、女は資本家というのが
これからの方向だ』といった意味の文章を
書いたことがあるが、株式ブームのなかにあって
婦人投資家のはたしている役割を考える時、
時代の動きの激しさをあらためて身にしみて感ずる。

株式市場の変遷はきわまりないし、
わずか一年のあいだに、株価の居所も変わったし、
金利も引き下げになった。したがって、
内容的には書き改めたほうがいい部分もあるが、
それをあえてそのままのせたのは、
次々と変わる世の中にあって、
原則的なことはそれほど変わるものではない
と思っているからである。

私のいっていることが正しいかどかというよりも、
私が考えたことが少しでもみなさんのお役に立てば、
というのが私の願いである。
昭和36年4月             邱永漢」

この邱さんの読者への願いは実現されています。
当時37歳であった邱永漢さんの文章を、
40数年を過ぎた今日、64歳である私が
こうして書き写して紹介しているのですから。