京大IPS細胞研究センター長、山中伸弥教授は

2008年、母校の神戸大学の入学式で記念講演をした際

新入生に対して、次の話から始められています。

 

「私はスポーツが大好きなので、
何でもスポーツに例えてしまいますが、
研究者生活はどんな感じか、ということから始めます。
中学から大学の2年生まで、柔道をやっておりました。

柔道というスポーツは、勝ち負けが非常にはっきりしています。

試合時間は5分、長ければ10分くらいの

こともありますが、一応決まっております。

私の場合一番早い試合では、
2秒で投げられて負けたことがあります。

4分58秒をどうしてくれるかと思うのですが、
もう何もありません。


大学2年で膝の靱帯を切りまして柔道をやめたのですが、

3年生になってよくなってくると、
ラグビー部に入部しました。ラグビーは柔道とちょっと違います。

どんな強い相手と試合をして徹底的にやられても、
80
分間戦い抜くというか、80分間我慢しないとだめです。

しかし、ラグビーも勝ち負けがはっきりしています。
現在やっているのがマラソンです。
これまでフルマラソンを4回か5回ほど走っていますが、
マラソンは勝ち負けだけではありません。

完走して自分の記録を1秒でも短縮する、
そういった別の意味があるのです。

では、研究はどちらでしょうか。
今、私たちのやっているiPS細胞の研究は、
アメリカの超一流大学と非常に厳しい競争になっています。
でも、これはマラソンです。
最後まで走り抜ける必要があります。

一番になれなくても論文を出す、
一番になれなくても特許を出すということです。
ですから、まず皆さんに伝えたいメッセ

ージは、研究はマラソンであるということです。
さらに、人生そのものがマラソンであるということを、

私は日々痛感しています。」

 

私たちは目の前のことに追われて

「人生そのものがマラソンである」
ということを忘れがちになりますので、

自戒の言葉として意義深いと思います。