日本でロボット化の動きが活発化した

 昭和50年代後半に書かれた邱永漢先生の

このトレンドを追った経済評論文を読み、

今の読者にとっても面白いのは

『野心家の時間割』(昭和59年)に書かれた

山崎鉄工所(現マザック)二代目社長、

山崎照幸氏との交流についての記述でしょう。

以前、「ハイQ」でも紹介された『野心家の時間割』

の中から、引用させていただきます。

 

「私がかつてコンサルタントをやった会社の一つに

山崎鉄工所という最近"無人工場"で評判をとっている

工作機械のメーカーがある。

この会社の社長の山崎照幸さんは、

進取の気性に富んだ人で、

私と知り合いになった昭和三十七年頃は、

まだ一ヶ月に汎用旋盤を四、五十台つくる程度の町工場に

多少、毛の生えたスケールの機械工場の二代目社長にすぎなかった。

 

工作機械は、ご承知のように、

景気不景気の影響をモロに受けるショウバイで、

景気のよい時は、山なす受注が消化しきれず、

こんなお金の儲かるショウバイが

世の中にあるかとホクホクするが、

いったん、産業界が不況におちいると、

いくらダンピングをしても誰も注文はくれないし、

たちまち金ぐりが悪化して、

今日つぶれるか、明日つぶれるか、

戦々兢々として日を送るようになる。

それでは心もとないので、

『もう少し安心して経営ができるように、

多角経営をやりたい』と山崎社長がいい出した。

『多角経営って何をやるのですか?』

と私はきいた。

「うちの工場の敷地があいていますから、

まずそれを利用して自動車学校をやりたい。

 

次に、名古屋市内にある本社ビルが木造の平屋だから、

あれをこわして、十階建てくらいのビルを建てて

不動産収入を得たいと思っています」と社長は答えた。

『お気持はわかりますが』と私は難色を示した。

『この三つともお互いに性質の違うショウバイですから、

一人で同時に三つやると気が散ります。

工作機械は全精力を傾けないと成功できませんから、

気が散らないほうがいいのではありませんか?

そんな多角経営よりも、いまつくられている工作機械を

アメリカに輪出できないものでしょうか?

国によって景気の動きが違うし、

需要先が何カ国かにまたがったら、

それだけで多角経営と同じ効果がありますよ』。

『うーむ』と山崎さんは手を額にあてながら

十分ほども考えた末に、

『そうですね。売れないこともないと思いますがねえ』と頷いた。」

(邱永漢著『野心家の時間割』)

この文章の続き、数回にわたって引用させていただきます。