前回、紹介した邱永漢著

『中国、次のテーマは食糧不足』平成23年)の続きです。

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「というのも当時の私は

株で大儲けしようと考えるよりも、

中国の工業化がこの調子で進んだら、

国は大金持ちになるけれど、

農業に従事する人が激減して、

日本や台湾や韓国のように

食糧の自給能力を失って

人口の半分の食糧を輸入に

頼らないとやっていけなくなる、

 

日本のように七千万人分なら

何とかなるだろうけれど、

七億人分では供給してくれる相手があるわけがない

――という妄想に駆られて、

中国じゅう食糧の開発のできそうな

地域を駆けまわっていたのです。

人手不足になって賃上げが始まったら、

毎年、所得が上がって国内消費が増えます。

賃上げの少なくとも20%は食べることに使われますから、

食料の需要に大きな変化が生じます。

野菜だけ食べていた人が肉を食べるようになるし、

鶏肉を食べていた人が牛肉を食べるようになります。

とうもろこしや小麦だって直接、口に入れていたのが、

家畜に食べさせて、それをまた人間が食べるとなると

今までに考えられなかったようなことが次々と起ってきます。

 

その対策をあれこれ考えて

東北三省から寧夏自治区、雲南省まで駆けまわった実録が

この本の中に何回も出てきます。

でもサインまでしてスタートした農地開発でも、

それぞれの地域のお役人さんとの思惑の行き違いもあって、

必ずしも思いどおりにはいっていません。

それでも大規模農業に対する私の情熱は

いまだに燃え続けており、残りの人生の

恐らくかなりの部分をその方面に

傾けることになると思っています。

 

二年前に比べると、中国政府の食糧に対する力の入れ方も

見違えるほど真剣になってきたし、天候のせいもありますが、

人々の食糧に対する関心もかつてないほど強くなっています。

同じ問題を抱えている日本にとっても、

また日本人にとっても食糧をどうするかは

最大の関心事になるのではないでしょうか。

 

二〇一一年二月吉日 バングラデシュ・ダッカにて

 

邱 永漢

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