前回に続き、石津謙介氏についての文章引用の続きです。
(出典:月刊「事業構想」2016年1月号)

アイビーファッションを日本に紹介

団塊の世代を中心に1960年代に流行したのが、
アイビーファッションであった。アイビーとは蔦を意味するが、
アメリカ東部の名門私立大学8校は、
「アイビーリーグ」と呼ばれていて、
アイビーリーグの学生たちのファッションが、
アイビーファッションの原型であった。
三つボタンのジャケットに
ボタンダウンシャツ、コットンパンツが定番であった。
それをいち早く日本に紹介したのが、VANブランドであった。

自社で販売するだけでなく、石津謙介は、
こうした男性向けファッションを雑誌などの
メディアへの寄稿を通じて情報発信していった。
従来は女性向けのファッション情報はあっても、
男性向けのファッションは
お手本となるべきスタイルがなかったのである。
そこに、VANヂャケットは、
若い男性の手本であり憧れの存在となったのであった。

現在では、「TPOをわきまえた服装を心がける」などと、
ビジネス用語としても普通に使われている「TPO」という言葉。
これは日本でしか通じない和製英語で、
石津謙介による造語である。
Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)の
頭文字をとったものである。
また、スポーツのトレーニングの際に着ていた運動着を
「トレーナー」といったのも、石津による造語である。
これ以外にも数多くの造語があるとされており、
新しい文化を生み出しているといえる。
 

VANヂャケットは、最盛期には、
400億円を超える売上があったとされる。
青山通りを中心に、VANの本社やオフィスなど、
VAN関連企業が点在していた。
 

現在は、表参道交差点からほど近い
青山通り沿いのブルックスブラザーズが入居するビルは、
かつては「VAN
99ホール」であった。
これは、99人収容の多目的ホールで、
入場料も99円と破格であった。
この建物は、元々、第一銀行(現みずほ銀行)からの
「本店並みの格式をもった建物を」という要請に応えて、
1967年に建てられた。
高い天井高と金庫室を備えた頑丈なつくりであるが、
1972年からは「VAN
99ホール」として使われていた。
このホールは、コシノジュンコの
ファッションショーの会場としても使われた。

 VANヂャケットや石津謙介は若者にとっての憧れの対象であり、
その本社の屋上看板には、
「VANタウン青山」と記されていたほどであった。